SPECIAL INTERVIEW

【秋田大学さまインタビュー】
動物実験施設における原虫対策と除染の実例。
秋田大学で行われた清浄度改善の取り組み

秋田大学の動物実験施設では、動物の健康に直接的な影響は見られないものの、清浄度指標としては好ましくない「原虫(実験動物に寄生する原生動物)」が確認される状況が続いていました。症状は出ない一方、研究環境や施設運用の観点では看過できない問題となっていました。このような症状が出ない原虫の存在は、動物実験施設において判断が難しい課題の一つです。

本記事では、秋田大学バイオサイエンス教育・研究サポートセンター 動物実験部門が直面したこの課題に対し、株式会社イカリステリファーム(以下、イカリS)とともに検討・実施した除染と清掃の取り組み、さらにその後の運用の工夫について紹介します。

対談者

関 信輔 先生

秋田大学 バイオサイエンス
教育・研究
サポートセンター 
動物実験部門
准教授/農学博士

柳田 愛美 さん

秋田大学 バイオサイエンス
教育・研究
サポートセンター 
動物実験部門
技術専門職員

東谷 美沙子 さん

秋田大学 バイオサイエンス
教育・研究
サポートセンター 
動物実験部門
技術専門職員

大本 哲也

株式会社イカリステリファーム
常務取締役

宮地 達智

株式会社イカリステリファーム
セールスチームマネージャー

本事例のポイント

導入前の課題
・症状は出ないが、清浄度指標として好ましくない原虫が検出されていた
・SPF区域内での運用に制約が生じていた

導入の決め手
・薬剤による完全不活化が難しいことを前提にした、現実的な提案
・物理的除去とガス除染を組み合わせた再現性の高いアプローチ

得られた効果
・1年半以上、原虫の非検出状態を維持
・清浄度を前提とした施設全体での統一運用が可能に

施工対象となった2階 SPF区域の配置図
(イカリステリファームによる施工はB区域)

動物実験における「清浄度」の意味

大本イカリS

秋田大学さんの動物実験施設では、どのような研究が行われているのでしょうか。

関先生

医学研究を中心に、免疫不全マウスに患者さんのがん細胞を移植して治療効果を見るような研究や、免疫・遺伝子機能の基礎研究、機能性食品が動物に与える影響の評価など、幅広いテーマで実験動物が用いられています。

柳田さん

医学部だけでなく理工系の生物系の先生方も利用されていて、「薬や治療が効くか」を見る臨床寄りの実験もあれば、「この遺伝子が何をしているか」といった基礎的な研究もあります。食品の機能性を調べる研究もありますので、一概に“医薬品だけ”というわけではありません。

宮地イカリS

同じ免疫系の研究でも、かなり違うアプローチがあるわけですね。

柳田さん

本当にいろいろな角度から見ている先生がいらっしゃいます。その分、「どの程度の清浄度が必要か」というニーズも研究ごとにかなり違います。

本当にいろいろな角度から見ている先生がいらっしゃいます。その分、「どの程度の清浄度が必要か」というニーズも研究ごとにかなり違います。

多様なニーズの中で見えてきた「原虫」の問題

大本イカリS

今回、除染をご依頼いただいたきっかけは、どのような問題だったのでしょうか。

関先生

当時、SPF(特定病原体不在)相当の清浄エリアが2つありました。一つは清浄度を維持できていたのですが、もう一つの広いエリアでは、症状が出ない原虫が定期検査で検出され続けていました。

柳田さん

原虫にはいくつかの種類がありますが、

・動物の健康に影響が出るもの
・健康被害は出にくいが、いない方が望ましいもの

といったカテゴリーに分けられます。当施設で問題になっていたのは後者で、「症状は出ないものの、清浄度指標としては好ましくない」原虫でした。

ここで言っている「症状が出ない原虫」は、主に消化管内に生息する原虫を指しています。

原虫の有無を確認する鏡検の様子(藤井 有里子 技術職員/獣医師)
Entamoeba muris(ネズミアメーバ)/光学顕微鏡像
Tritrichomonas muris(トリコモナス)/透過型電子顕微鏡像

※顕微鏡像はいずれも実験動物の消化管内に生息する原虫の代表例。
写真提供:公益財団法人 実験動物中央研究所 ICLASモニタリングセンター(※転載禁止)

関先生

消化管内原虫がいると「なんとなく気持ちが悪い」という話ではなく、免疫系の解析に影響を及ぼすことが分かっており、高度な免疫学の研究が制限されてしまいます。また、免疫不全動物を飼育・利用するうえでも、不安が残る状況でした。

さらに、これらの原虫は実中研の微生物検査セットにも含まれており、実務上はSPF管理項目として扱われています。そのため、当時のSPF-B区域は、「SPF区域と呼べる状態ではなかった」というのが実情でした。

「薬で殺せない」原虫除染の本質的な難しさ

宮地イカリS

微生物というと、薬剤でどうにかできないかと考えがちですが、最初に文献を調べた段階で、原虫に対し飼育室環境下で100%の不活化が期待できる方法は見つかりませんでした。原虫はシスト、オーシストという耐性の高い形態を作るため、一般的な消毒薬だけでの対応は難しいのが実情です。

柳田さん

私たちも、芽胞やシストを作る微生物はとにかくしぶといと実感しています。薬剤だけで対応するのは現実的ではなく、結果として、物理的に取り除くことの重要性を強く感じるようになりました。

関先生

ただ、施設全体でそれを行おうとすると、相当なマンパワーと時間が必要になります。日常業務をこなしながら自分たちだけで対応するのは、現実的ではないと感じていました。

イカリステリファームが提案した「物理的除去」中心の戦略

文献調査だけでなく、過去の実験動物施設・医薬・食品分野での除染経験を踏まえ、「現実的に再現可能な方法」として物理的除去を軸にした提案が行われました。

宮地イカリS

そこで私たちは、「薬剤で決めきれないなら、物理的除去を中心に据えましょう」という方針をご説明しました。

具体的には次のような組み合わせです。

・全ての飼育ラックを洗浄室に移動
・高圧洗浄機を使った徹底的な水洗い(飼育ラック&SPF室の天井・壁・床面)
・ブラシを使用した汚れ落としやマイクロファイバークロスなどによる拭き上げ
・HEPAフィルター交換後の過酢酸系除菌剤ドライフォグ除染による無菌化
・過酢酸系除菌剤が適さない精密機器にはホルムアルデヒドガス燻蒸

拭き上げによる清掃作業の様子

大本イカリS

特に長い期間ラックを動かしていなかった部屋では、壁や床に汚れがかなり蓄積していました。お腹の調子が悪い動物が多いと、糞尿の微細な飛沫が空中に舞って、少しずつ壁に付着していくんですよね。そういう部屋ほど原虫の検出頻度も高かった。

柳田さん

顕微鏡でマウスの腸内を観察すると、腸内細菌が見えないくらい原虫だらけの部屋もありました。そういう意味では、「洗い流す」というアプローチは理にかなっていましたし、実施していただき、大変助かりました。

洗えない場所への対応:ガス燻蒸と無菌化

宮地イカリS

CT装置などの高額機器は水洗いができませんので、ホルムアルデヒドガス燻蒸を行いました。原虫や寄生虫には形態により効果が限定的な場面もありますが、細菌や真菌といった微生物に対しては十分な除染効果が期待できます。

また、HEPAフィルターの交換に伴い外気が入り、細菌が一時的に持ち込まれる可能性があるため、過酢酸系除菌剤によるドライフォグ除染で部屋全体を無菌化しました。これにより、原虫とは別の微生物リスクも同時に低減しています。

日常清掃で清浄度を維持するために重要なこと:
現場を支える飼育スタッフの視点

大本イカリS

除染作業だけでなく、日々の清掃も大切だと思います。普段の清掃では、どのような点に気をつけていらっしゃいますか。

東谷さん

ラックを寄せないと、下の方の汚れがどんどん溜まって、糞がずっと残っているような状態になってしまいます。「糞に原虫がいる」と伺ったので、ラックを必ず動かして、下に溜まった汚れや糞を週1回の頻度で徹底的に取り除くようにしています。

大本イカリS

ラックを移動させてまでやっているんですね。

東谷さん

はい。正直、かなり大変なのですが、「ゴミや汚れを残さない」ということを徹底したうえで拭き掃除をしています。以前は、やっている人とやっていない人の差があったので、今はスタッフ全員に共通ルールとしてお願いしています。

柳田さん

特にB区域には、利用者さんが管理を主体的に行っている部屋もありました。そういう部屋では、私たちが直接目を配りにくい分、壁などに汚れが残ってしまった面もあったと思います。今回の除染を機に、「どこまで施設側が責任を持つか」「利用者さんにどこまでお願いするか」という線引きも、改めて整理するきっかけになりました。

除染後のモニタリング:原虫“ゼロ”を確認

除染前と除染後の比較

除染前
・症状が出ない原虫が定期検査で検出
・清浄度ごとの運用をエリアで分けて対応

除染後
・1年半以上、原虫の非検出を確認
・高い清浄度を前提とした統一運用が可能に

大本イカリS

除染後、原虫のモニタリング状況はいかがでしょうか。

柳田さん

当施設では年4回の微生物モニタリングを行っており、そのうち1回は実中研に動物を送り、外部検査を依頼しています。残りの3回は施設内で自主検査をしています。

症状が出ない原虫については、盲腸内容物を生理食塩水で懸濁し、スライドガラスに載せて顕微鏡で直接観察する方法で確認していますが、除染後は原虫が検出されていません。

宮地イカリS

1年半経っても出ていないというのは、作業した側としても本当にありがたい結果です。

関先生

一発でここまできれいにしていただいて、ただただ感謝しかありません。高度な免疫の研究を行う先生方にも、安心してSPF-B区域をご利用いただけるようになっています。

マンパワーとコストの現実、そして専門業者の役割

大本イカリS

これだけの作業を、大学側だけでやるのはかなり大変だったと思います。

関先生

はい。今は予算も人員も厳しい状況で、「人は減らしつつ、施設の利用は増えている」という感覚があります。本来であれば自分たちでやらなければいけないところまで、今回のようにしっかりと対応していただけることは、本当にありがたいです。二度と同じ原虫が出てほしくないですから。

柳田さん

洗うことが一番強力な対策だと分かっていても、そこに必要なマンパワーと時間を捻出するのは簡単ではありません。「依頼すれば対応していただける」という選択肢があるのは、大学側にとっても非常に心強いと感じています。

今後の展望:定期的な「リセット清掃」と原虫対策の共有

宮地イカリS

今後の施設運用で、検討されていることはありますか。

関先生

空調設備の老朽化もあり、3年後を目処にB区域の改修工事を検討しています。その際には、HEPAフィルター交換と合わせて、今回のような除染作業を“リセット清掃”として入れていければと考えています。

柳田さん

原虫対策は、あまり表に出ない話題です。困ったときに情報を探しても、なかなか事例が見つからないことが多い。今回のような取り組みが記事として残ることで、同じような課題を抱える施設のヒントになればうれしいですね。

大本イカリS

私たちとしても、こうした実例を積み重ねていくことが重要だと考えています。同様の課題に直面した際に、「こういうやり方もある」と思い出していただける存在でありたいですね。

<左から> イカリステリファーム 宮地 達智、大本 哲也、秋田大学 関 信輔 先生、東谷 美沙子 さん、柳田 愛美 さん

おわりに

秋田大学の事例は、症状が出ない原虫が施設の清浄度と研究の信頼性にどれほど大きな影響を与え得るか、そして「薬剤では殺せない微生物に対して、物理的除去と適切なガス除染を組み合わせることがどれほど有効か」を示した、実務的かつ貴重なケースです。

現場の繊細な清掃を担う飼育スタッフの努力と、専門業者による大規模除染が組み合わさることで、動物実験施設の清浄度が「維持できるレベル」に達する近道となります。研究の信頼性を支える除染技術と運用、そしてその裏側で働く人々の知恵と手作業こそが、これからの生命科学研究を支える土台となっていくはずです。

画像提供

顕微鏡像
公益財団法人 実験動物中央研究所 ICLASモニタリングセンター
※本記事内の顕微鏡像(Entamoeba muris/Tritrichomonas muris)は同センターよりご提供いただきました。無断転載を禁じます。
施設写真
秋田大学 バイオサイエンス教育・研究サポートセンター 動物実験部門
関連リンク
秋田大学
https://www.akita-u.ac.jp/

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